【2】波紋のはじまり。(モカ編)

第1話からの続きの話

目次

第2話:モカ × 無言の.wavファイル


その日、モカは下北沢にいた。

珍しいことだった。
基本的に彼女はひとりで家にこもって、音を作る。
それが孤独だと思ったことも、足りないと思ったこともない。
“全部、自分でやれる”という強さと確信があったから。

…でも、最近。
何かが、詰まっていた。
音は出せるのに、動かない。


その何かを探すように、
たまたまネットで見かけた駆け出しバンドのライブを観に来た。
名前はあまり覚えていない。
けど、ちょっとだけ引っかかる音だった。
土曜の昼、ライブハウスは熱気で満ちていた。

ステージの上の彼らは、たしかにキラキラしてた。
「よくできてるな」
「曲も演奏も、バランスもいい」
でも、どこかでモカは思ってた。

「私がバンド組んでライブしたら、 もっと、やれる。」

静かに、確かに、
嫉妬に近い火が心に灯った。


ライブハウスを出て、駅へ向かう道。
モカはどこか、歩きながら考えてた。
あのステージの景色、自分ならどう鳴らすか。
そのとき──

アコースティックギターの音が、
冬の夕方の空気をかき分けて届いてきた。


「……あれ?」

足が止まる。
広場の一角、人通りの合間に、ひとりで歌う女の子。

地べたに置かれた看板。
名前とSNSのQRコード。

モカはスマホを取り出し、
いつものように“資料用”のつもりで数枚撮った。
それから、録音アプリを立ち上げて、音を収めた。


部屋に帰って、
録音したその声を再生した。

不安定で、真っ直ぐで、
でも、喉の奥から出してるのがわかる声だった。

歌詞もコードも、構成も粗削り。
けど、それを吹き飛ばす何かがあった。

「この子がボーカルのバンドなら、 絶対にすごいことになる。」

そう確信した。


何も考えず、モカはギターを手に取った。
録音したその音に、
ただ、音を重ねていった。

“合わせる”んじゃない。
“理解する”ための作業だった。

フレーズを削ぎ落としながら、
何度もリプレイしながら、
呼吸を読むように、音を差し出すように。


ファイル名は「m01.wav」
意味なんてない。けど、最初の一歩だとわかってた。

送信先は、あのQRコードから辿ったSNS。
DMを開いて、ファイルを添付した。

言葉は入れなかった。

「組みませんか」とか、「聴いてください」とか、
そういうの、野暮だと思った。

“この音で、わかって。”
ただそれだけだった。


スマホを伏せて、ベッドに倒れ込む。
布団に沈む背中に、少しだけ熱が残ってた。

…通知音が鳴った。

…いいじゃん、それ。もう1個ないの?


その一行を見た瞬間、
モカは小さく笑った。

返信はしなかった。
でも、もう次の.wavファイルを作りはじめていた。


To be continued…
第3話:ルリ × 再会の再起動

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