番外編:アヤ × 見つめていた人
この子たちのことを、わたしは「発見」したわけじゃない。
ただ、見逃さなかっただけ。

最初に出会ったのは、リコだった。
秋の終わり、少し肌寒くなってきた下北沢の路上。
人通りはまばらで、誰も足を止めていなかったけど──
彼女の声だけが、街のノイズを突き抜けて響いていた。
あのときのわたしは、カメラも構えられなかった。
ただ立ち尽くして、寒さも忘れて、震えてた。
その後、わたしはリコに声をかけて、
弾き語りのサポートをするようになった。
機材の手配、SNSの管理、撮影、スケジューリング……
いろんなことを手伝いながら、心の中でずっと考えていた。
「この子はすごい。 でも、ひとりじゃ辿り着けない場所がある」
リコは、“届く声”を持っていた。
その声は、人の心を震わせる。
でも、まだ“広がる力”が足りなかった。

そして、冬の夜に、モカが現れた。
最初のメッセージは、言葉じゃなくて.wavファイル。
そこには、路上で録音されたリコの歌に、
誰かが丁寧にギターを重ねた音があった。
聴いた瞬間、涙が出そうになった。
“この人、わかってる”って思った。
言葉じゃなくて、音で届く人。
その後、リコとふたりで、モカに会いに行った。
そのとき、正直ちょっとびっくりした。
見た目は誰よりも女の子してて、
おっとりしてそうな雰囲気だったのに──
話し出すと頭の中、機械と構造の話ばっかり!
音の仕組みや機材の話、
レコーディング方法、エフェクターの相性、さらには周波数帯の話まで。
わたしの方が勉強になるくらいだった。
モカが加わってから、音作りだけじゃなくて、
配信の仕組みやデータ整理、ネット関係の効率化までめちゃくちゃ助けられてる。
コード進行の管理やアーカイブ整理まで、どれだけ裏で支えてくれてるか…。
そういう知識も、思考も、気遣いも。 全部ひっくるめて、モカが加わったことで、 リコの“届く声”に、“深さ”が生まれた。

そして、春のある日。
リコがわたしに言った。
「ルリに会いたい。もう一回、一緒にやりたい」
高校のときに一緒にバンドをやっていた友達。
リコの中にずっと残っていた、あの頃の青春の記憶。
そして、わたしもすぐに気づいた。
リコに足りなかったのは、“言葉”じゃない。
「誰かに、寄り添われること」だった。
ルリは、家族のために毎日忙しく動いていた。
誰に頼まれたわけでもないのに、自然と「やる側」に回ってしまう。
優しい子だと思った。
だけど、それはただの優しさじゃない。
“誰かのために力を発揮できる”――それが、ルリの強さだった。
そしてルリが加わったとき、
リコの“届く声”とモカの“深さ”に、“あたたかさ”が加わった。

3人での活動が本格的になり、迎えた夏の入り口。
わたしたちはひとつの悩みに直面してた。
ドラムが、見つからなかった。
何人かサポートをお願いしたけど、
上手くいかない日々が続いた。
わたしもリコたちも、
「もう、ドラマーと出会うことはないのかもしれない」と思い始めてた。
そんなとき、ある子のことを思い出した。
以前、対バンで出たライブハウスで働いてたスタッフの子。
ドラムのセッティングをしている姿が、妙に印象に残っていた。
名前は──ツカサさん。
連絡先も知らなかったから、
みんなで「ライブを見に行こう」という名目で、その箱に向かった。
出演バンドをちゃんと観て、
ライブが終わったあと、片付けをしていたツカサさんにリコが声をかけた。
「今、ドラマー探してて……
一度、叩いてくれませんか?」
その返事は短くて、静かだった。
「……試しで良ければ」
でも、あのときわたしは見ていた。
ツカサの目が、一瞬だけ、“きらり”と光ったのを。
初めて4人でライブをした日。
本番後、全員が満場一致だった。
「この子しかいない」って。
ツカサが正式に加わったとき、
リコの“届く声”、モカの“深さ”、ルリの“あたたかさ”に、
“力強さ”が加わった。

あたしは、音を鳴らせない。
でも、光を見てる。
この子たちの音が、
誰かの心に、ちゃんと届くように。
そのためなら、
スケジュールも、SNSも、交渉も、現場管理も、なんでもやる。
それが、わたしの“鳴らし方”。
Code:Rippleは、4人組のバンド。
でも、その音がどこまで届くかを信じてる、
“5人目の視点”が、ここにいる。
To be continued…
→ 波紋は、もっと遠くへ。