リハ終わりの夜。
ルリは家のことをするって帰っちゃって、モカはスタジオに残って音作り。
残されたリコとツカサは、なんとなくそのままファミレスへ。
リコ:「ツーちゃん、ファミレス行こ!ドリンクバー飲み放題で語ろっ!」
ツカサ:「……うん」
ツカサ(脳内):「“語ろっ”……って軽いけど深いやつ……警戒……でも行く……」
着席して3分後。
リコ:「今日のリハさぁ、最後のとこちょっと音速かった?ツーちゃん的にはどうだった?」
ツカサ:「……ちょっとだけ」
ツカサ(脳内):「0.27秒。はい精密解析完了。てか、リコよ……そこ気づいてくるのほんとすごい……尊……」
リコ:「でもさ〜ツーちゃんが“ドンッ”ってリズムで抑えてくれるから、あたし逆にあのまま走っても大丈夫だった!あれ、愛だよね〜?」
ツカサ:「……うん」
ツカサ(脳内):「きた……“愛”って言葉きた……落ち着けツカサ……表情変えるな……よし、無。全力で“無”を装え……」
リコ:「ってかさ、明日の予定なんだけど、駅前集合でいい?」
ツカサ:「……うん」
リコ:「で、そのあとあたしちょっと寄りたいとこあるんだよね〜」
ツカサ:「……どこ?」
リコ:「リコーダーショップ」
ツカサ(脳内):「リコーダーショップ?????????????え、リコーダーって……あのピーヒャラの……笛???駅前にそんな専門店あったっけ????」
リコ:「あ〜〜ツーちゃん、今“そんな店あるか?”って思ってるでしょ〜?言っとくけど、あたしらがよく行くあの楽器屋の3階!リコーダーコーナーがあるの!あたしはそこを勝手に“リコーダーショップ”って呼んでるだけ!」
ツカサ(脳内):「あ、なるほど。脳内命名だったのか。……納得……いや、納得していいのか?なんか……すごい自由……てかリコって、ほんとに言葉のジャムセッションしてる……」
リコ:「しかもさ、あそこの店員さん、ちょっとツーちゃんみたいなメイクしてて可愛いんだよね〜〜!明日もいるかなぁ?ツーちゃんも、会いたいでしょ?」
ツカサ:「……別に」
ツカサ(脳内):「(超会いたいけど)今行ったらメイク真似してるのバレる……それはまだ耐性が……」
リコはケタケタ笑いながらポテトをつまみ、ツカサは無言でアイスコーヒーを飲む。
でも、内心はとっくに演奏が始まっていた。
ツカサ(脳内):「話の展開の早さ、着地地点の読めなさ、突然の転調……これは完全に即興セッション。でも私、こういうの……」
ツカサ:「……臨むところ」
リコ:「ん?なにか言った?」
ツカサ:「……なんでもない」
リコ(笑いながら):
「ふふっ、ツーちゃんと話すのも楽しいなぁ」
──この日のふたりの会話、ざっくり数えるとリコ9:ツカサ1。
それでも、不思議なくらい、ちゃんと“通じ合ってた”。