
雨。今日はずっと降ってる。
練習の忘れ物を取りに事務所へ寄ったら、アヤさんが買い出しリストと睨めっこして固まってた。
明日は朝から、全員で撮影。遠くまで行く。だから備品は、今日中に揃えないと間に合わない。
リストは長い。外は土砂降り。荷物は、たぶん一人分じゃ持てない量。
「手伝うよ」
そう言ったら、アヤさんが救われた顔をした。

「ほんとに?助かる……今日ね、ポイント5倍デーなの。しかも雨の日ポイントも乗る。だから今日が一番お得で、今日逃せなくて」
経費を預かってる人の顔だった。こういうとこ、ちゃんとしてる。
傘をさして、二人で出た。

乾燥剤。タオル。飲み物。軽食。電池。ゴミ袋。
明日の撮影で要るもの、機材を湿気から守るもの。リストを半分こして、手分けした。
私が先に乾燥剤を多めにカゴへ入れたら、アヤさんが「ルリは気が利くねぇ」と言った。
別に。弟たちの買い物で、慣れてるだけ。
何を取るか、どっちが運ぶか。いちいち言わなくても、決まっていく。
阿吽、っていうのかもしれない。
お姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。そう思った。

雑貨の棚の前で、足が止まった。
手のひらに乗るくらいの、小さいサモエドのぬいぐるみ。
……かわいい。
弟たちなら、こういうの、すぐ「欲しい」って言う。私は、言えない。
あの素直さは、ちょっとだけ、羨ましい。
でも、カゴには入れない。今日要るものじゃない。自分のものは、別に、いらない。
そのまま、通り過ぎた。

会計のとき。アヤさんの手に、さっきのサモエドがあった。
「お礼。今日いっぱい付き合ってくれたから」
え、と言う前に、もうレジを通してた。
「お姉さんだからね。えっへん」
……見られてた。
断ろうとしたのに、言葉が出てこなかった。雨の日だから小さいのにした、って、アヤさんは笑ってた。確かに、大きいのは濡れるし、持って帰るの大変だ。そういう理由まで、ちゃんと用意されてた。

帰り道、雨脚がさらに強くなって、喫茶店に逃げ込んだ。
温かいお茶を二つ。窓ガラスを、雨が斜めに流れていく。
サモエドは、テーブルの上に座らせた。
「ルリはさ」とアヤさんが言った。「いつも誰かの心配ばっかりしてるでしょ。弟くんたちも、リコたちも。だから、たまには私がルリの番。今日はそういう日」
何も言えなくて、お茶を飲んだ。
肩の力が、少しだけ抜けた気がした。最年少なのに、いつも一番しっかりしてなきゃ、と思ってた。アヤさんの前では、ちょっとだけ、年下でいてもいいのかもしれない。
「……ありがとう、ございます」
それだけ、言えた。

事務所に戻って、買ったものを片づけた。窓辺に、アヤさんがてるてる坊主を吊るしてた。明日、晴れるといい。
帰る頃には、雨は少し小降りになってた。
鞄の口から、小さいサモエドが、顔を出して揺れてた。🌿
