右手と左足が、まだ同じ小節にいない|深夜五時間、ひとりスタジオの話

ツカサ - 深夜スタジオで無表情に叩く外側と感情爆発の脳内チビ
ツカサ - 深夜スタジオで無表情に叩く外側と感情爆発の脳内チビ
ツカサ - 出かける前の玄関で黒猫とドラムスティックバッグ

出る前、黒猫が足にまとわりついてきた。

「…行ってくる。朝には帰る」

べつに、留守番してろとは言ってない。言わないけど。

終電で、スタジオに向かう。この時間に楽器ケースみたいな顔で電車乗ってるの、たぶん私だけ。…べつにいい。

0時、入り。深夜パック、5時まで。ひとりでこの時間に個室取るやつなんて、わけありか、よっぽど好きか、どっちか。…まあ、後者。

ツカサ - 深夜の個室スタジオでセッティングを終える

ほんとは、個人練の予約だけだと、この店、深夜は開けてくれない。きょうはたまたま受付で、別の部屋のバンドが話してるのが聞こえた。レコーディング前の、プリプロがどうとか。…同い年くらい。がんばれ。言わないけど。そのバンドが深夜に入ってるおかげで店が遅くまで開いてて、こっちの個人練も滑り込めた。こんな夜、めったにない。

昼でもいいんだけど。夜型だし、平日の昼の個人練なんて安いし、いつでも取れる。でも、街が全部寝てる時間の、あの静かなテンション。あれがないと、ここまで潜れない。だから、きょうは、ちょっと特別。

きょうさらうのは、コピー。変拍子で知られる、あの女性バンドの、あの一節。言葉にできるなら、たぶん叩いてない。

最初の1時間で、わかった。これ、手と足が、別々の宇宙にいる。

メトリック・モジュレーション、ってやつ。テンポは変わってないのに、途中で音符の割り方がすり替わって、さっきまでの裏が、急に表になる。”1″が、ぬるっと横にずれる。頭ではわかってる。わかってるのに、左足だけ、前の宇宙に置いてけぼり。

しかも隙間にゴーストノートを詰めろときた。バックビートの合間に、聞こえるか聞こえないかの粒を、右手は別のことやりながら。…むりでしょ、これ。

ツカサ - 右手と左足の混線に脳内チビが暴れる

右手ぇ!なんでそこで先走るの〜!? 左足置いてったらダメ〜!そこは相思相愛でしょ!? ふたりは別々の軌道でいいの、いいんだけど、3拍目!3拍目の交差点だけは絶対手つないで!周回がズレてても、そこ乗り越えたら絶対また巡り会えるから!信じて〜!!

…もういっそ名前つけよう。右手は、みぎちゃん。左足は、ひだりくん。みぎちゃん、ひだりくん、頼むよ、ふたりで3拍目こえて。…あっ、いまひだりくんが勝手に外出した。どこ行くの。帰ってきて。お願いだから同じ小節に住んで〜〜!!

三拍目で崩れる。また三拍目。三拍目だけ、別の人格がいる。

…むかつく。

むかつくんだけど、たのしい。できないのがこんなにたのしいの、ドラムだけかもしれない。

ツカサ - グミと可愛いタオルで小休憩

水。トイレ。グミ。

このグミのパッケージのパンダ、めっちゃ可愛い〜〜〜!!萌える!キュン!なにこれ元気出る〜!ありがとうパンダちゃん、俄然やる気出た、うぉ〜〜〜いけるいけるいける、もう一回っ!

…ほぼ、止まってない。気づいたら時計が4時を回ってた。

ツカサ - リズムがハマった瞬間の脳内祝祭

で、4時すぎ。ふっと、来た。

右手と左足が、別々の軌道のまま、同じ一点で巡り会った。ずっと交わらなかったふたりが、3拍目の交差点で、ちゃんと手をつないだ。…相思相愛、成立。

頭の中、満員だった。みぎちゃんもひだりくんも、たぶん泣いてた。

そのまま、始発の時間まで、もう何周もした。からだが忘れないように。

ツカサ - 朝5時過ぎにドラムスティックバッグを提げて帰る

5時、退出。始発で、帰る。空、もう白い。

「……寝たい」

脳内、ぷしゅー、∑(゚Д゚)。からっぽで、いっぱい。歩きながら、さっきのフレーズが、まだ手の中で鳴ってる。…これがあるから、やめられない。

ツカサ - 帰宅後メイクを落として黒猫と眠る

帰って、メイク落として、薄いやつ一枚、タオルケット。黒猫が、もう私の場所で寝てる。…どいて、とは言わない。

右手と左足が、やっと同じ小節で巡り会えた夢を、たぶん見る。

おやすみ。🐈‍⬛

ツカサ - 深夜スタジオで無表情に叩く外側と感情爆発の脳内チビ

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